地盤と地盤災害 第2回: 微動探査とはなにか?
インタビュー 先名 重樹先生
博士(工学) 国立研究開発法人 防災科学技術研究所
社会防災システム研究部門主幹研究員
当法人理事
専門は地震動予測地図の作成、地震動数値シミュレーション、3次元地盤モデルの構築、物理探査手法の解析全般
1.微動探査とはどのような調査方法ですか?
『微動探査』とは、高性能な地震計を使って人が感じない地盤の揺れを測る探査方法です。地震計を複数置くことで、地面の揺れの特性である地盤の増幅特性=地盤が何倍くらい地下から揺れやすくなっているかということや、地盤の周期特性=どのような地震の揺れ方で大きく揺れるのかというものを直接的に測ることのできる手法です。
2.どうしてこの機械を置くことで地面の地下のことがわかるのですか?
地球上には、微動という私たち人間に感じることの出来ない揺れが常に存在しています。常に小さな波が地中・地表に流れているという状況です。この波(揺れ)を平常時に測ることによって、実際地震が起こった時と同じような揺れの特性を測ることができます。その揺れによる波の速度やどの周期で揺れているかを計算することで、地下の深部までの軟らかさ、硬さがわかります。
3.微動探査の歴史はどうですか?
微動探査は比較的歴史が浅く、原理自体は約60年前ですが、約30年前(1980年頃)にその手法が開発され、2003年頃(約15年前)に実用化された手法です。
4.防災科研の微動探査の取り組みの歴史はどうですか?
防災科学技術研究所(文部科学省所管の国立研究開発法人、先名先生の所属)では、国の地震本部の為に、ボーリングデータ等の地質調査や微動探査のデータを用いて地下構造モデルを全国的に作っています。今から約20年前に国の地震本部で地下構造モデルを作るプロジェクトが始まって以来の歴史があります。
5.地盤増幅率とはどのようなものか?
ある地震が起こった時に、基準となる堅さの基盤に対して地震の揺れ方(振幅)というものが倍揺れる時は増幅率が倍、となる数値です。
6.J-SHISの揺れやすさマップと微動探査の結果の関係はどうですか?
現状のJ-SHISから公開されている地盤増幅率マップは、簡単に説明すると、250mメッシュの微地形区分から得られる、24種類の微地形区分に基づいて全国的に割り当てた増幅率、という形で出しています。これは結局、鹿児島と関東にある(例えば「ローム台地」などの)同じ微地形区分の観測点の平均をとっているので、その地域の揺れやすさではないものを当てはめています。
その地点の増幅率を実際に調査した場合、最大で3倍、最小で3分の1程度も揺れやすさが変わってくるということもあります。微動探査は、それを直接測ることでピンポイントの地点で揺れやすさの強さ、揺れ方の違いが分かってきます。もう1つは、微地形区分ではおおよその増幅率は推定できても、周期特性はわかりません。そのため、どの周期が一番揺れやすいのか調べるために微動探査が必要と考えています。
7.地盤の卓越周期とはどのようなものですか?
卓越周期とは、その地面(地盤)が持つ固有の周期で、地盤がどういう軟らかさ硬さで構成されているかによって周期の特性が異なります。例えば、非常に軟らかい層が薄い場合はガタガタという非常に短い周期の揺れが多くなります。ただ、非常に軟らかい層が厚くなると今度はユサユサという、より周期の長い揺れになります。同じ地層でも、層の厚さが変わることで揺れやすさの周期特性は変わります。建物の高さや低さおよび建物の強度の違いでも同じように周期特性は変わってきますが、地盤でも同じようなことが起こるということです。
8.地盤と建物の共振とはどのようなものですか?
地盤にも(揺れやすい)固有周期がありますが、建物にも固有周期があります。この固有周期同士が合致してしまうと非常に強い揺れ(共振)になります。それぞれの周期の揺れが掛け算のようになるため、非常に大きく建物が揺れてしまうことになります。 逆にこの周期が合っていない(地盤と建物の周期がずれる)と、揺れが小さくなる可能性があります。
9.共振でものすごく建物が揺れたとか過去の地震での事例はありますか?
2011年東北地方太平洋沖地震の時に、震源から遠い大阪市此花区の世界貿易センタービルがなぜか長時間揺れたということがあります。これは、地盤の固有周期が大阪周辺では約3秒といわれ、世界貿易センタービルの固有周期も約3秒付近で固有周期が合ってしまったことと、非常に遠くて小さい振動でも長く揺れが続いたことにより非常に大きく揺れた(共振)と考えられています。
10.微動探査結果と過去の地震の事例はありますか?
微動探査から得られる特徴として、例えば北海道胆振東部地震は、中越地震や熊本地震と比べて非常に震源が深く、規模が小さい割に震度7や震度6強の分布が同程度みられ、私たち研究者の中でも驚きをもって見ています。この理由は微動探査等の地下構造調査をすればわかることですが、私たちが過去に作成してきた地盤モデルでも、北海道胆振東部付近は日本の中でも柔らかい堆積層が厚い地域であり、関東地方の2倍から3倍堆積しています。
熊本地震では、熊本付近で数百メートルくらいしか柔らかい堆積層がなく、(北海道胆振東部地震エリアと)10倍以上堆積層の厚さが違うということがあります。その柔らかい堆積層が厚いと、全体的に揺れが大きくなってしまうということがあります。こういったことも、初めに微動探査をしておけばある程度の事がわかります。
11.微動探査は住宅づくりにどのように役立つのか?
地盤だけではなく、建物にも固有周期はあります。また、建てられかたによっても変わります。例えば同じ軸組み工法でも設計方法や住宅メーカーによっても固有周期が変わってきます。微動探査では、地盤の周期特性を計測することが出来るので共振して壊れやすくなるかどうかということがわかります。
一方で、微動探査は地中の軟らかさ硬さもわかります。それによって非常に軟らかい地盤だと地盤災害を起こすこと、増幅度が大きくなって揺れやすさが全体的に大きくなるということが言えます。このような事を事前に把握しておくために微動探査が役に立つと考えております。
12.スウェーデン式サウンディング試験やボーリング調査とは何が違うのですか?
SS(スウェーデン式サウンディング試験)とボーリングでは、実際に地下に穴を掘って地盤の硬さ軟らかさを直接的に調べます。建物の重さに地盤が耐えられるか、土質や地質、水位を調べるという点では非常に有効な方法なのですが、本当の意味での土の軟らかさ硬さ(地耐力)や、地震があったときの揺れ方を知る方法ではありません。
本当の土の軟らかさ硬さはS波速度構造(せん断波速度)といい、地盤の揺れやすさを知るための一番重要なパラメータであり、それを直接的に調べることが出来るのが微動探査です。これは非破壊の方法で、非常に地面の揺れや軟らかさ硬さの特徴を的確に数値化することが出来ます。
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